不意に、叫んでいる僕の視界の上で、扉が開いた。

中禅寺が入ってきた。ちょっとない、凄い形相だ。それにが視界に入ってギクリとしたかのように関口のギターの音が止んだ。僕も叫ぶのを止めた。ついでにギターもやめる。フェードアウトするように、ウッドベースの音が止んで、最終的に益田のハイハットの音で全てが止んだ。
終わり方に不満があった。どうして止めたのか関口に問いただそうと背後を振り返ると、関口は床に屈み込んでいた。

「おい、関。どうした?」

関口は、手だけを上げて顔を上げようとしない。

「いや、ちょっと、酔いが回って、脚が立たないです」

そうか、関口は素面じゃなかった。酒に相当弱いのだ。僕は自分が基準なので、それをすっかり失念していた。僕はアンプからプラグを抜いて、ギターを床に置くと、関口の腕を取った。
実質は五分ぐらいの演奏だっただろうか。演奏と言っても感情を爆発させただけのものだったが、関口巽という人間が、感覚的に掴めた気がした。あの叫びようは、中々見れるものじゃない。愚図愚図してる割には思い切るととんでもない爆発力を見せる。あの絶叫は酔いの産物かもしれないがそれを差っぴいても、面白い人間だ。

「うん、関君は充分面白い人間だな。好きだ、そういう人間は」

僕の手を借りて立ち上がった関口は、ふらふらしながらじっと僕の顔見詰めるだけだった。

背後でシャン、と音がした。振り返ると、スネアを置いた益田が嬉しそうに辺りを見回しながらこっちにやってきた。益田のスネアがハイハットに当たって立てた音だったのだ。

「榎木津先輩っ! それで? どこに可愛い子が居るんですか?! ぼかぁもう、張り切っちゃったんですがね!」

益田のその言葉を聞いて、関口は申し訳無さそうな表情を浮かべながら、ギターのストラップを肩から外した。

「ん、こいつ」

「は? こいつってどいつです?」

「だから、こいつだよ。ギターの少しテンパの。関口巽っていうの。今日入部したんだ。可愛いでしょう」

「…っ! ――がぁ――!! 俺の、俺の、合コンを返してくれっ…!」

関口が「飛び切り可愛い子」だと知ると、ショックを受けた益田はやり場の無い怒りを床にくず折れて、拳を情けなく叩き付け、泣き言を呻き続けた。

「俺に、男を口説けと…? そんな冒険は要らない…! 女をくれ、おんなぁ…!!」

「合コンは明日なんだろ? 益田は一々大げさだな。速攻かえって寝りゃあいいだろう」

「そりゃそうですけどね、なんだろうかこの蹂躙されたような遣る瀬無さは…」

「益田さん…ごめんなさい。予定を潰してしまったみたいで…あの、榎木津先輩はどうしても、ここで演奏をしたかったようで――止め切れなかった僕が悪いです」

関口が、しゃがんで益田に喋りかけている。僕は暇なので、先程関口が使っていたギブソンを肩にかけて、007のテーマ曲を奏でる。どこかのバンドのギタリストが間を持たせるのに良く弾いていたのを思い出したのだ。

「は…いや…騙された俺も悪いんだけどね…。榎木津さんが太鼓判を押すもんだからテッキリ、物凄いロッカーな可愛いギャルが入部したもんだとばっかり…」

「そうだなぁ、騙される益田が悪いぞ」

「騙した榎木津さんが一番悪いですよ! あんたぁ、呑気に007弾いてる場合ですか!」

「下僕の癖に生意気だな。普段もてないから直ぐ引っ掛かるんだ。そんなほいほい相手の甘言に乗ってたら、そのうち壺買わされるぞ」

合コンなんかじゃなくて、本気の相手を探しなさい。僕がそう云ってやったら益田は、またふぇーと泣き出した。関口が慌てているので見ていると面白い。

「益田先輩…元気出してくださいよ…本当に」

「君になんか、俺の苦しみが理解できるわけ無いんだあぁ!」

「何当たり前なこと言ってるんだ、下僕。いつまでもそこにうじうじとしゃがんでいたら、ギターで打ちのめすぞ」

益田は直ぐに立ち上がった。最初っから脅しておけば鬱陶しい思いをしなくてすんだのか。
僕は溜息を一つついた。

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